JADE 冷泉翡翠の探検

私は探検に生命を捧げている。この世にはまだ見ぬ謎が隠されている。それを発見し調査するのが私の使命である。私は冷泉翡翠という名の探検家だ。オカルトライターとしてウェブサイトへ記事も投稿している。超常現象研究家の肩書も持つ。そのような私をある者は理想を持ちロマンを探し求める人だと言う。更にある者は命知らずのただのバカだと言う。善悪様々な意見があるが私にはどうでも良いことだ。人間不振の私は人の評価と言うものに興味はない。私が興味があるのはUMAだ。未確認生物・UMAと言う存在はオカルト関係の題材の中でも現実性があるジャンルと言えるだろう。何故ならUMAは未だに発見されていない未知の生物であるからだ。アフリカのゴリラは19世紀までは実在しない生物だと考えられていた。そのような生物は他にもたくさんいる。今でも未開のジャングルでは新種が発見されることがある。近代以前は全て未発見の生物がおり、現在でもいる可能性は十分ある。このように探検や調査が行われる度に明らかになるケースはいくらでもある。このUMAの正体は古代生物の生き残り、突然変異体、現存動物の見間違いなど色々な見解があるが、私は存在すると信じている。私は真実を実際に体験するまではいるかいないかは決められないと考えている。科学が発達した今日でも説明不可能な現象は発生している。超常現象だ。その不可思議を地球上でもっとも集約させた場所は未だ原始の姿を残す南アメリカ大陸アマゾン川熱帯雨林だ。

その女はタバコを深々と吸い込んだ。濁流のような雨が激しく古ぼけた建物を打ち付けている。熱帯特有の体が溶けるような暑さが一体を包んでいる。一帯は激しい雷雨だ。

「いよいよだな…」

女が呟く。

ここはマナウスのとあるボートハウス。女はタバコを無造作に捨てると傷んだ椅子に座り、食料、医薬品、武器弾薬といった探検に使う装備品を大きなバッグに放り込んでいく。稲妻を照明代わりに女はおもむろに探し物をする。

「これだ。」

女が掴んだのはサバイバルナイフだ。

「これは必需品だ。無くてはならない。」

女の荷物には武器が多かった。だがこれが生命線になるのだ。

「一通りは終わったな。」

女は建物の外に出る。奥からボートの点検をする男達の声が、すぐ近くからは同じように道具の点検をする女達の声が聞こえる。ちょうど準備が終わった頃男女が二人私の元へやって来た。どうやら点検が終わったようだ。

「冷泉隊長、機材の点検は完了しました。問題ありません。」

男が言う。

「冷泉隊長、装備は正常に作動しました。」

今度は女が言う。

「では、そろそろ出発だ。数ヵ月はジャングルの中だ。覚悟を決めておけ。」

「はい!」

「ジャングルは我々に試練を与える。だが皆でそれを乗り越えるのだ。」

独特のハスキーボイスで隊長の冷泉翡翠が話す。それに隊員達の覇気のある声が続く。いよいよ探検の始まりだ。

「半魚人の潜む魔境のジャングルに入る時が来た。」

冷泉はボートに素早く乗り込んだ。探検隊を乗せたボートはゆっくりとマナウスの港を出発した。

私は今、アマゾンにいる。アマゾンは地球上で最も美しい所であり、恐ろしい所であり、ロマンがある所である。探検家を始めて十年以上経つが未だにアマゾンには未知のロマンを感じる。数十回のアマゾン探検を行ってもだ。ここは他にはないエネルギーに満ちている。そしてその巨大な熱帯雨林には様々な生物が生息している。猛獣、巨大生物、希少な動植物…数え上げればキリがない。更にUMAまでも。私は世界中の超常現象や生物、遺跡を調査し探検している。これまでの探検で発見した生物も数多い。アマゾン熱帯雨林のジャングルに対する植林も積極的に行っている。私のアマゾン探検はUMA調査が多い。だが今回の探検は気力が漲ってくる。今回は半魚人発見の探検だからだ。私は半魚人が好きだ。魚好きというのもある。私は様々な熱帯魚を飼育している。半魚人伝説を探るには生物学的な知識も必要だ。幸い私にはそれがある。進化の過程で地上を支配した人類でさえも適応できなかった水中の世界を支配する魚。その魚と人の特徴を併せ持ったある意味イレギュラーな生命体に何とも言えぬ魅力を感じる。最も興味あるUMAに興奮しているというわけだ。だが危険が待っている。半魚人の発見にはジャングルを踏破し奥地のインディオ接触し、数か月もの間密林で生活をする必要があるためだ。その間予期せぬ事態や危険な猛獣の襲撃もある。また、探検の途中全く異なる未確認生物と遭遇する可能性すらある。いつ何が起こってもおかしくない。しかし私はそのスリルが堪らなく好きだ。先が読めない状況でこそ人間の真価は発揮される。日常では分からない人間性というのは非日常の世界で発揮されるもの。隊員達も最初とは比較にならない程精神的に強くなった。皆私に忠誠を誓った物達だ。彼らもまたアマゾンに鍛えられて来たのだ。半魚人追跡は相当な困難が予想される。私は逞しくなった彼らの活躍に期待している。この探検は我々にとっても得るべき経験となるだろう。私は勇気を持って緑の魔境に潜む魔物に立ち向かった。奇跡を信じて。その前にこの半魚人伝説の探検に至る、私が探検家になる切っ掛けや影響を受けた人物、記念すべき初探検の話をしよう。